Report1 ~JPPA会長三上信一氏インタビュー~

「コロナ禍でも、危機感よりは次に何をしようかという前向きなモチベーションを」

日本では昨年の東京の屋形船や横浜のダイヤモンドプリンセス号のクラスターで端を発したコロナの蔓延は、その後4月には最初の緊急事態宣言の発令に至り、今や緊急事態宣言が発令されていない期間の方が稀な状況となってしまった。コロナの蔓延はポスプロ業界にも大きな影響をもたらし、ウィズ・コロナに対応した新たな活動が行われている。コロナ禍におけるJPPA(一般社団法人日本ポストプロダクション協会)の取り組みや今後の展開、さらに業界の現況について、JPPA会長の三上信一氏にお話をお聞きした。 

コロナ禍でもアウォードと資格認定開催

本 誌:一昨年のJPPA新年会では、オリンピックで需要も拡大し景気も上向きになるとの挨拶が各団体でありましたが、コロナで状況が一転してしまいましたね。
三 上:協会も会員の皆様に熱心に活動をしていただいていますが、大きな事業は開催ができず、それでも昨年は、委員会の皆様が頑張っていただいて、資格認定試験と、規模は縮小しましたがアウォード贈賞式を開催しました。本当に良くやっていただきました。そして、アウォード贈賞式については、今年は無観客ですが会場をお借りして開催しました。
 九州放送機器展についても、ギリギリまで開催の方向で準備を進めていましたが、経費の事を考えるとキャンセル料も多額になりますので、最終的に感染対策を優先して協会で中止を決断させていただきました。実は、昨年は中止による収入減を理由に補助金を受給でき、最小限の経費負担で済みましたが、今年はそれができませんので、早めに中止の判断をしました。
 九州放送機器展については、オリンピック絡みもあり色々と難しい要素もありました。オリンピックが予定通り開催されていたら、世界水泳があの会場で行われる予定で、会場が埋まっていました。期間をずらすにしても、放送機器の展示会は全国でローテーションが決まっており、簡単にずらせません。また、オリンピックのサービス体制を構築しなければならず、展示に労力を割けないと言うメーカーさんもありました。
本 誌:NAB視察ツアーも、今年は開催期間が10月になりましたが昨年に続いて中止になりましたね。一方で、最近は情報がオンラインでも豊富にとれるようになりましたね。
三 上:確かにメーカーさんは、オンラインで色々なセミナーを開催していますが、本当の営業には中々繋がらないので、早くリアルな展示会ができないかと聞いています。
 三大事業以外では、業界団体として団結し情報共有を図るため『コロナ禍での実態調査』を行ったり、『業界ガイドライン』を策定しました。さらに、ポスプロにおけるニューノーマルを探るための各種セミナーを開催し、技術面でもリモート編集等の新しい形の模索をスタートしました。
 さらに、業界団体ならではのメリットを活かすために、経済産業省やその他省庁から得られる情報を、瞬時に会員社内で共有し、コロナ対策、各種給付金等の情報がくまなく行き渡ることに努めています。

 三上氏はJPPA会長であると同時に、東京サウンド・プロダクションの経営者でもあり、今回のコロナにおけるポストプロダクションへの影響を肌感覚で感じ取れる立場でもある。この辺りについてもお話を伺った。

営業的には大きなダメージは回避

本 誌:ポスプロ業界としては、コロナの影響は如何ですか。
三 上:以前と比べれば売上は落ちていますが、大きなダメージを負ったという話は聞いていません。それなりの仕事量は確保されています。初めての緊急事態宣言が発令された昨年の3月、4月、5月は、ドラマを初めとした制作がストップして大変でしたが、そこからある程度、仕事は戻ってきていると言う感触を会員の皆さんから聞いています。
 当社(東京サウンド・プロダクション)でいえば、テレビ番組がメインですので、ロケに出られないと、その後の編集もできませんので、色々なダメージがありました。局もギリギリまで物作りしたいと粘りますが、感染状況から最終的にドタキャンと言うケースも多くありました。
 オリンピックについても、実は放送局もギリギリまで開催するかどうか解らず、半分ぐらいは中止も考えて準備を進めていました。当社も、オリンピックが開催されると、通常のレギュラー番組が無くなり、その部分の売り上げが無くなります。一方、オリンピックが、もっと盛り上がっていれば、オリンピック関連の番組制作がありましたが、それもなかったので、両面でマイナス効果でした。
 二度と体験できないであろう東京のオリンピックが、こんな形になり非常に残念です。
本 誌:前回の東京オリンピックの時は、東京の小学6年生はオリンピックに連れて行ってもらえました。私は、国立競技場でサッカーでしたが、当時、サッカーは人気競技でなく、どの国の対戦だったかは記憶にありませんが、友人と国立競技場内を走り回っていた楽しい記憶があります。無観客にするなら、子供を招待したら良かったのにと思います。

リアルとオンラインのメリットが明確に

本 誌:協会として一緒に集まって活動できなくなったのは、昨年の春頃からですか。
三 上:運営委員会もオンラインとなりました。事務局には、各委員会をまとめていただくなど、大変頑張っていただいています。
 先日の定時総会の時に、三役だけはリアルにお会いしました。本当に、懐かしく感じ、話が盛り上がりました。会って話をして情報交換するのが、すごく重要だと実感しました。オンラインは、勉強するには便利なツールですか、やはり人とお会いして色々なお話をして情報交換する場がないと、狭い世界になってしまいます。
 一方で、委員会活動がすべてオンラインとなって1年半経過しますが、 地方の会員社からは、委員会活動に参加しやすくなったと聞いています。また、一方向のセミナー等は、 むしろオンラインの方が、利便性が高いといった発見もありました。
本 誌:対面(リアル)のメリット、オンラインのメリットと言うのが、ここへきて明確になってきましたね。
三 上:我々の仕事は、どうしてもOJT(On the Job Training)が必要であり、それができないと継承ができません。若い人も、そうやって覚えないと、なかなか仕事が覚えられません。特に地方から出てきて1年目で一人暮らしのスタッフをオンラインで教育していましたが、本人は凄く不安だろうと思います。
本 誌:オンラインと言う観点では、政府は在宅勤務を推奨していますが、ポスプロでも在宅勤務はされているのですか。
三 上:非現業のスタッフは在宅もありますが、現業ではリモートで行える部分もあるものの、どうしてもスタジオで仕事をしたり、撮影は現場に行かなければなりませんので、半分をリモートにするのは無理ですね。
 ただ、お客様には、できる限り来社されないでオンラインで指示だけいただいて、後でプレビューを見ていただくといった協力はしていただいています。ただ、どうしても生番組とか時間に追われている番組では難しいですね。当社でも、リモート編集やリモートMAは行っていますが、全てをリモートにするのは中々難しいです。

 コロナ以前から課題となっているのが、政府が打ち出した方針である働き方改革である。法制度としてこれに対応していくことはもちろん、現在の時代としての風潮でもあり、特に若いスタッフに対して、どのように取り組んでいくかが求められるという。

働き方改革は業界の取り組むべき課題

本 誌:以前、お話をお聞きした時の大きなテーマは働き方改革でしたが、これはコロナ禍でも変わりませんか。
三 上:ポスプロ業界は、コロナ禍に関わらず働き方改革にはきちんと挑まないと大きな痛手になります。前回のインタビューでは、この業界で働き方改革はできるのかと思っていましたが、色々な方とお話をしていく中で、「法律で決まったことを破って仕事して良いか」、何処かで線を引いて行かないと、ずっと法律違反を犯したままで仕事を続けることになってしまいます。そこで、「過就労を防ぐ」という課題と、「仕事をするというモチベーションを壊すのもやめよう」という課題を、どうしたら両立できるかが、とりあえず皆で取り組むべき問題だと考えています。
 働き方にメリハリを付ける中で、物作りがしっかり終わって、そこできちんと休めるという体制を組んでいかないと駄目だと思います。
 クリエイティブな仕事をする人間に、それをするというのは言い方が悪いですが、工場のラインにいるようなことを強いているようで、クリエイティブな物ではなくなります。メリハリを付ける中で、物作りがしっかり終わって、そこで休めるという体制をしっかり組んでいかないと駄目だと思います。
 私達の若いころは、三徹、四徹やって今になりましたが、これからは、そうでないシステムを作って行かないとなりません。
本 誌:確かに我々の若い頃は、それが当たり前と思っていましたが、今考えると異常な世界であり、働き方改革は重要ですね。仕事量の確保と働いている人のモチベーションと両立というのは、かなり難しい課題ですね。
三 上:難しい課題ですが、スピーディに取り組まないと駄目だと考えています解決策としては、増員しかありません。優秀な人間を、どう増員するかという、本当に難しい問題になります。ただ難しいと言っても状況は変わらないので、性根を入れて取り組んで欲しいと思います。
 幸いなことに放送局をはじめ現場の理解もできてきました。お互い働き方改革を守ろうと言う風潮が出てきており、よりこちら側からも訴えていくことが必要だと思います。

ポストコロナに向け新活動形態を模索

本 誌:今後のJPPAの取り組みとしては、どのような事を考えていますか。
三 上:今後の課題としては、アフター・コロナをどう考えていくかですね。現状は、アフター・コロナ=ウィズ・コロナですが。比率的には、軽症・無症状が多いのですが基本的には、治療薬ができないと、インフルエンザのような扱いになりません。
本 誌:確かにワクチン接種もまだ途上ですし、これはという治療薬はありませんね。
三 上:スタッフをロケに出すにもPCR検査を受けなくてはならず、現在でもスタッフは3日毎に検査を受けています。
 ワクチンについても、オリンピック関係の人間は早めに打つことができました。また、職域接種で若いスタッフも打っていますが、結果を見ると若い女性ほど副反応が出ています。シフトで動いているスタッフは、打つタイミングも難しいです。濃厚接触に認定されるのも辛いです。感染者が編集室に来ていたとなると濃厚接触者となり、症状が無くても2週間は出社できません。2~3人でも2週間離脱するとシフトが維持できません。発症したスタッフの方が、陰性になって先に帰ってくるケースもあるといったように、まだまだコロナ抜きでは考えられないのが現状です。
本 誌:当分はウィズ・コロナでの活動になりますね。

三 上:このような状況下でも、我々ポスプロは、危機感よりは、次は何しようかと言う前向きなモチベーションを持っています。
 JPPAの会員各社は、委員会活動を止めることなく、厳しい環境だからこそ、共に知恵を出し合って乗り切るというスピリットで、活発な活動を行っています。これが、コロナ禍でも退会される会員社が少なくて済んだ要因だと考えています。
 今後のJPPAは、今までの委員会活動スタイルにとらわれず、ポストコロナにおいて、新しい活動形態を各委員会で模索し続けていきます。
 また、前述のとおり会員相互の対面による親交と情報交換は重要なことで、来年の新年賀詞交換会は何とか開催したいと思っています。人数制限は掛けなければなりませんが。デルタ株の猛威を見るとパーティが開催できるかは、 10月、11月の状況次第ですが。ワクチン接種が行きわたって治療薬がどうなるかですね。
本 誌:本日はありがとうございました。
(取材・文責 染矢清和)

三上信一氏 
JPPA(日本ポストプロダクション協会)会長 
東京サウンド・プロダクション 代表取締役社長