Report 3 <OPINION>

映像業界人材の行方、ネット動画とテレビ・映画
~刺激しあうことでメディアは進化への新たなステージへ~

テレビ離れが進んでいるといわれる昨今。それは視聴者だけの話ではなく映像制作者、つまり人材までも離れてしまうのか。ネット上で誰もが簡単にコンテンツを制作・配信し、大きな利益を上げることが可能になってきた現在、新たな市場へ人材が集まっていくのはむしろ必然的な流れともいえる。そうした現状は、映像業界にはどう映っているのか。長年、テレビドラマや映画を中心に映像制作の現場に携わってきた演出家白石達也氏にお話を伺った。そこには新しい進化のステップがあるという。(取材・文責 放送ジャーナル編集部)  

 映画スタッフ集めで、志望者はゼロ

 従来メディアであるテレビや映画と、ネットの比較論をよく目にする。ここ数年で急速に売上げを伸ばし勢いを増すネット配信大手。しかしそうした事業者はテレビや映画とはコンテンツ供給の方法が違うというだけで、本質的には同じサイドにある。一方でYouTubeをはじめとする個人ベースでの動画配信の世界はまさに百花繚乱だ。テレビや映画のような縛りもほとんどなく、スマホひとつで世界へ向けて自作品を発信することができる。映像制作をしたければ、もはやテレビや映画を目指す必要はない。そんな状況について、今回、白石氏にはまもなく放送が開始するドラマの撮影準備の合間、時間を作って頂いた。人材が集まらないという実感は確かにあるという。

「何年か前、とある映画のスタッフを集める際に、専門学校へお声かけさせていただいた時のことです。何人かでも参加していただけると踏んでいたのですが、想像していたものとは違って、実際にはゼロ。戸惑いました。時代が変わったというか・・・。私がまだ新人だったころ、現場では多くの専門学校の学生さんが当たり前のように働いていましたから」

 募集をかけたスタッフは演出部。せっかくプロの制作現場から声をかけてもらっているのにもったいないようにも思えるが、どうしてもそこに携わりたいという時代ではなくなってきているのかもしれない。テレビや映画への興味は失われているのだろうか。

「逆に映像制作のすそ野が広がってきたことと、とらえています。自分たちの時代は他に選びようがなかったのですが、今はスタイルが違ってきていて、個人ベースで何でもできてしまう。そういう意味では、多くの人にとって映像制作がより身近になってきているのだなと」

 個々の現場にとっては人手が確保しにくいことは大変ではあるが、映像業界全体を見渡した時それは、むしろよい傾向なのかもしれないという。

ドラマスタッフとキャスティング打ち合わせ
今回、白石氏には忙しい撮影準備の合間を縫ってお話を伺った

YouTuberと呼ばれる人たちが出てきて、個人ベースで利益をあげられるようになり、子供の将来なりたい職業の上位に顔を出し始めたのはほんの十年ほど前のこと。世間ではまだ冷ややかに見る目が大半だったが、成功事例が次々に世の中にあふれてくると、潮目が変わった。一つの仕事として確立してきている部分もあり、最近ではYouTubeに限らず、様々なプラットホームでの映像配信が盛んだ。

 YouTuberへのあこがれは、
  今の子供たちにとっては自然なこと

 実際に成功し多くの収入を得ているのは1割にも満たないという報告もある。簡単に足を踏み入れたのはいいが思うようにいかずに辞めてしまう人も多い。

「どの職業にも当てはまることとは思いますが、例えばイチローさんに憧れて野球を始めたりですとか、最初はそういうシンプルな動機から、その世界に入っていくのは自然なことなのではないかと思います。十年ほど前はYouTuberの方たちは先駆者でしたが、今や子供たちは初めからそういう世界があるわけで、それを見て憧れ、将来、自分もなりたいと思う。その気持ち自体は野球選手になりたいという思いと変わりはないのかもしれません。野球選手を目指しても成功するのはほんの一握りです。ただ、成功するかどうかというのは、何を成功と考えるかの違いなのかなとは思います。お金が儲かるというのは分かりやすい成功事例ですが、それが全てではなく、自分の動画が多くの人に見てもらえること、あるいは自分の趣味や面白い情報を発信して共感を得ること、それがその人にとっての目的なのであれば、そこが達成できれば成功であり、人それぞれ、いろいろな成功の形でがあるのかなあという気がします」

 個人で映像制作を行うこと自体はデジタルツールの進化でもっと早い時期からある程度普及はしていたが、それがビジネスとして成立するような仕組みが構築されてきたことにより、その広がりは一気に加速した。もはや選択し得る仕事の一つとして、少なくとも若い世代にには認知されてきている。

仕事ということに関して言えば、 白石氏がテレビ業界に足を踏み入れたのは、かれこれ二十年以上前。駆け出しの時代から今に至るまで、そして、‟仕事”に対する考えを伺った。

 はじめての仕事は当然、一番下で雑用から始まった。今でも決して楽な職業ではないが、当時、この業界は3Kと呼ばれるような、厳しい業種でもあった。

「それはきつかったです。わからないことを聞くだけで怒られるということもありました。職人肌というか徒弟制度のような体質で、『教えないから盗め、見て覚えろ』という感じです。そうは言っても実際、見るだけで覚られるものじゃないです。とにかくよく怒られましたし、仕事量にしてもとにかく大量でほとんど家に帰れない、睡眠時間もまともにとれない、の連続でした」

 普通ならいつ辞めてもおかしくない状況。実際、逃げたいと思うことは何度もあったというが。

「ただ、なんとなくですが、つらくても三十才くらいまでは、この仕事を続けようと思っていました」

 厳しい毎日だったが経験を積んでいくと、表には出ない仕事の奥深さについても学んでいくようになったという。例えば、スケジュールを組む役目を担うようになってきたとき。

「スケジュールの組み方一つでドラマは変わるということを感じたことがあります。実際、なるべくコストがかからないような効率重視のスケジュールがあります。これは割と一般的でそういうスケジュールをきっちり組むことは大事です。一方で、なるべく順撮りで撮影できるよう組んでおくスケジュールもあります。一件効率が悪そうに見えますが、役者も含めたスタッフ全体に芝居の流れの共通認識が高まり、細々としたところでのやりやすさがある。どちらが正しいということではなくて、いろいろなやり方があって、正解は一つではないということを学びました」

 仕事には縁がつきもの。「仕事は呼ばれる」

 もともとはドラマではなくドキュメンタリー志望だったが、配属されたのはドラマ部だった。ほかにもドラマ志望の同期はいたので、“何で自分が?”と思いながらも、しばらくの間はドラマの仕事に忙殺されていたという。その時のドキュメンタリーに対する思いとは。

「正直、新人のころはそれどころではなかったです。そのときそのときをこなすので精一杯でした。ただ、ことあるごとにドキュメンタリーをやりたいという意思表示はしていまして、ある時、たまたまドキュメンタリータッチの仕事をやらせていただく機会がありました」

 しかし、そこにはどこか違和感をおぼえたという。

「自分の思い描いていたドキュメンタリーといえば、本当に現実をそのまま切り取って伝えるというものでした。でもその仕事は、ドキュメンタリータッチの作品だったこともあって、当時の自分としてはズレを感じました。どうせなら完全にフィクションであるドラマの方が割り切れていいと、ある意味、ふっ切れたと思います」

 仕事との出会い、人との出会いの中では、なかなか思うようにならないこともあるが、その中で自分を変えてくれた出会いもある。ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』で堤幸彦監督の下で助監督を務めさせてもらったときのことだという。

「はじめはびっくりしました。自分がそれまで経験してきたやり方に対して、堤監督はまったく違うタイプの方で、その場で感じ取った面白さを活かして、臨機応変に撮り方を変えていくような、いわばひらめきを大事にして、実行してくようなスタイルでした。独特な世界観をお持ちの監督で、そのやり方の違いはとても刺激になり、勉強になりました。そうこうしていくうちに、堤監督とはご縁もあり、後に映画『20世紀少年』でチーフ助監督をさせていただく機会とサードユニットの演出を任せてもらえました」

 白石氏は実は一度、業界を辞めた時期があったのだが、復帰する際にも堤監督に縁があった。

「もともと、この仕事も三十(才)くらいまでと思っていたこともあり、それが過ぎ、そろそろこのへんでいいかなあと。いったん業界から距離をおいて郷里へ帰っていました。するとかつての知人から手伝ってくれないかと何度も声がかかり、断り切れずに東京へ戻ってくると、今度はたまたま堤監督と再会。『映画あるけど、やる?』みたいな感じで。結局、それもやらせていただくと、また次も、というようなことで仕事をいただき、今ではドラマを演出する機会をいただいています。

「『仕事は呼ばれる』という言葉を聞いたことがあります。自分に声が掛かるときは何かしら自分がその仕事に向いているのだと。お話したようにはじめからドラマの演出をやろうとしていたわけではありません。いろいろともがいているうちに今の自分があるのかもしれません」

 ネット動画の世界もまたしかりで、その中で仕事をしている人たちは、どこかその仕事との縁があるということなのかもしれない。

 刺激を受ける対象が変わってきている

 映像作品を自らクリエートしたい、それを多くの人に見てもらいたい。それがネット動画という形で簡単にできるなら、いわゆる従来型のメディアであるテレビや映画といった業界に、新たな才能が入ってこないのだろうか。白石氏はそれにもまた違う見方をしている。

「昔は、何かを学ぼうとか刺激を受けようと思うなら、同じ業界の他の作品や旧作名作を見るということしかなかったです。でも今は個人のネット作品を見ていると、斬新なものが結構あって、まったく違う角度からの刺激をもらえています。勉強になることが多いです。確かに現在は(コンテンツを作ることにおいて)より手軽さを手に入れることがきているのですから、クリエーターを目指す人が既存のテレビや映画業界ではなく、ネット動画を選ぶのも当然です。でも、双方はライバル関係ではなく、規模やシステムを含めたアプローチの仕方が違うというだけ。お互い刺激しあえるような存在なのではないかと思っています」

 映像メディアの変遷は映画からテレビと続き、現在はネットへのシフトも言われている。新しいメディアが登場すると、初めはせめぎあいが起こるが、相乗効果がうまい具合に機能すれば、お互いより良い形で一段上のステージに上がることができるということかもしれない。

 今、白石氏自身はテレビドラマにとどまらず、映画の企画を進めたり、ドキュメンタリー作品の構想など様々な仕事にとりくんでいる。

「失敗するためにいろいろなことをやっていると思ってます。失敗からは学べますから。実際、若い時にきつい経験をした分、今はそれ以上のものが自分に返ってきているのかもしれません」と語った。

 最後に近々、白石氏が監督を担当する読売テレビ制作のドラマ「ケイ×ヤク」について。

「内容はまだ詳しくは話せません(取材時11月中旬)が、制作陣はフリーランスで映画を作っていたスタッフが集まりました。どこか刺激的な作品になると思います」

今月13日木曜夜23:59より日本テレビ系列でスタートする。

(写真撮影 北圃莉奈子氏)

Profile
白石達也氏
演出家/監督